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News Release
医語よろしく

2009年1月~

【2009.3.6】

メタボ健診・考
「メタボ健診のせいで乳がん死が増える?」

てんこ盛りに忙しかった自治体の乳がん検診も2月(年度末)で一段落し、やっと一息ついたところだが、絶対去年よりたくさんの受診者を診たと思っていたのに、実は「がん検診受診率」は下がっているという意外な報告があった。その原因は本年度から始まった「メタボ健診」にあるらしい。

昨年度までは、いわゆる「成人病」(今は生活習慣病と呼ぶ)については基本健診の型で、がん検診と同じく自治体(市町村)の指定する医療機関で受診することができたのだが、今年から導入されたメタボ健診(名前を代えた成人病健診)は、サラリーマンの奥さんなどの場合、職場の健康保険組合が管理することになったので、がん検診と同じ医療機関で受診することができないケースが出てきたらしい。

しかもメタボ健診は「受診義務」が科せられており、(受診率が低いと該当する健康保険組合がペナルテイを受ける) 一方のがん検診は「努力目標」にすぎないので、受診を促す側だってメタボ健診の方に力を入れるだろうし、受診者もいちいち別の医療機関に行ってそれぞれの診断を受けるような時間の余裕もないし、必然的にメタボ健診優先、「がん検診」がおろそかになり後回しにされたわけである。

日本人死因の第一位である「がん」を克服するためのがん対策基本法でも、早期発見のために「がん検診」に力を入れようと国家的医療政策を打ち出したはずなのに、そのもくろみとはものの見事に「逆行」しており、このままだとますます「がん検診」がおろそかにされてしまう。乳がん検診が「乳がんによる死亡」を減少させるためにいかに有用な手段かについては、ここであらためて触れる必要もないので、その代わり、メタボ健診などというくだらないものに金と時間を使うのはとっとと辞めた方が良いという話を、今一度させてもらおうと思う。以前から、この「医語よろしく」にもさんざん書いているので、バックナンバーもご覧いただこう。

  1. 1)
    2007.9.21 「○ ○の秋、満喫中・・・part1」
  2. 2)
    2008.1.20 「政令3市がメタボ健診無料化を検討 受診向上狙い?」

そもそも「メタボ検診」とは言わず正しくは「メタボ健診」、つまり検診(病気かどうかの診察)ではなく、健診(健康診断)である。(私も以前の稿では言葉の使い方を誤っていた)。要は生活習慣病の指摘と予防を目的にする健康チェックに他ならないが、ではその生活習慣病とはいったい何かおさらいしておこう。

生活習慣病の定義は、「過食、過飲、運動不足、過労、喫煙、等の生活習慣がその発症・進行に関する症候群」のこと。生活習慣病が「がん」と異なる点を考えてみると、「がん」はいくら生活習慣を改善しても予防は不可能であるのに対し、かたや自らの生活習慣の改善により発症や病気の増悪を予防できるのが生活習慣病である。また治療に際しても、生活習慣病ではいくら薬を使っても本人の自覚がなければ病気の進行を食い止められないという、いわゆる「おとなの良識」が問われる病気なのである。

なぜメタボで居るのか・・自覚がないからだろう・・自覚があればメタボ健診で診断を下される前に、自ら腹を引っ込める努力をしているはずである。メタボを指摘し、生活習慣の改善を指導し、仮にそれに関連する病気を見つけて薬の治療を施したところで、自覚がない人間にはなんの効果もなく、医療費削減どころか全くの金の無駄使い。たいそうな金をかけて腹回りを測定して、メタボを指摘することにいったい何の意味があるのか?

ある知り合いの内科の先生からのこんな話を聞いた。
「もともと高血圧の薬が効かないヒトなんかいませんよ。腎性高血圧とか褐色細胞腫とかやっかいな特殊な高血圧をのぞけば、原因がわからない高血圧でも必ず薬は効果があります。なのになぜ血圧がコントロールできないかっていうと、それはコンプライアンスの問題、要は患者が薬をきちんと服用しないからですよ。どんなに良い薬でも飲まなきゃ治療になりません。」・・・・・・・なんだそうである。そうやって多くの高い薬が意味なく処方され医療費が無駄使いされてるんだろうなあ。

ある研究者は、「心臓の冠動脈や脳血管の動脈硬化の進み具合とメタボ腹との間には、それほど関連がなさそう」という研究結果を報告したりして、そうなるとますますメタボ健診の意味がわからなくなる。とっとと辞めようよメタボ健診。更にがん検診の受診を促す方策の方がよっぽど重要に思うのだが・・

この意味のないメタボ健診しかり、診療レセプトのオンライン化も医師会から猛反対をくらっているし、新人医師の臨床研修制度も始まって何年も経たないのに急に1年に短縮しよう・・とか・・・・・最近の厚労省の医療施策はお役人がちょいとの思いつきでやってるような印象があり、ひとつとしてろくな結果が出そうもない。いつもの終わり方でこの稿を閉じよう。
「頭の悪いお役人さん達へ、もうちょっと脳ミソつかえよ!」