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News Release
医語よろしく

2011年1月~

【2011.12.6】

アバソール おしまいの巻 (アバソールはFDAより強し!?)

認定医X:
先生、先生!大変ですよ。米国FDA*下記注でアバスチンの乳がんでの使用適応がはずされたんですって!? これじゃいずれ日本でも使えなくなっちゃうじゃないですか・・・えらいことですよね・・
専門医A:
ふふん、なにあわててんだい!
認定医X:
ふふんじゃないですよ、一大事でしょう?だって、せっかく日本でも再発乳がんで使えるようになったから、僕もたくさんの患者さん達にアバスチン(アバソール)をお奨めしようと思っている矢先に、米国で適応削除になったんじゃ、いつ日本でもダメになるんだろう・・・って、心配ですよ・・
専門医A:
ちょっと、まあ、おちつけや・・米国のFDAでは、アバスチンの乳がんでの適応を削除する予定である・・というアナウンス(勧告)は、実は今年の春頃から、ずっとしてたんだよ。夏頃には、多くの乳がんの専門家や患者さんなどに参加してもらう公聴会を開いて、本当に適応からはずしていいかどうか広く意見を求めたりして、ずっとこの件を検討してきたのさ。
認定医X:
なんかそんな話があったことは記憶してますが。
専門医A:
米国の事情がそういう状況で、結果がどうなるか流動的で、ひょっとしたらFDAの勧告通り、いずれ適応が削除になるかもしれないことを承知の上で、日本では、国内でおこなわれた臨床試験の結果なども踏まえて、米国の事情には左右されることなく、独自の判断で9月にアバスチンを承認したんだよ。だから今回のFDAの取り下げは、実は前々からアナウンスされていたことが起こっただけで、日本の承認、つまり日本でのアバスチンの使用許可に関しては、一切関係がないんだよ、だからちっとも慌てることはないってこと・・
認定医X:
しかしまあ、なんでFDAは、こんなに有用なアバスチンの使用許可を取り下げてしまったんでしょう。
専門医A:
今回のFDAの見解によれば、アバスチンを乳がん患者さんへ投与すると、リスク・ベネフィットつまり、効果とマイナス面とが著しくアンバランスで、要は効果(治療期間を延ばすことや、腫瘍を小さくするパワー)に比べて有害事象(生命に危機的状況を及ぼす副作用が)勝っているため、適切でない・・と言う理由らしいんだが・・
認定医X:
え、?そんなにおっかない薬なんですか?
専門医A:
・・って、FDAの報告書には記載してあるけれども、日本で承認前に行われた治験では決してそうではなかったんだよ。その治験に参加した日本の乳腺専門医の先生達の意見では、致死的な副作用などきわめて希であり、再発乳がんの患者さんに十分に利益をもたらすことができる薬だ、と言う意見が圧倒的に多いんだそうだよ。
認定医X:
はあ?でも、米国で使えなくなったとすると、いわゆるグローバルドラッグ(世界の標準薬)じゃなくなったわけですね。どこだかの薬みたいに、日本人だけとかアジア人にしか使えないとかの、限られた国や地域でしか使えないのって、なんかチンケなイメージが・・
専門医A:
なにとぼけたこと言ってんだい。アバスチンって世界80国以上で使用されている世界標準薬だよ。ヨーロッパなんかでは、アバスチンはタキソールだけでなくゼローダとも一緒に使えるくらい評価されてるんだぜ。今回の米国の決めごとは、しょせん米国内での事情に過ぎない。おそらく保険のこととか「高額な医療」にまつわる逆風が米国でブレーキになっちゃったんじゃないかい?・・・例の格差社会で貧富の差がどったらこったらで、アバスチンなんて真っ先に、裕福な人しか使えない高価な薬・・みたいなイメージだろ?日本では普通に健康保険でまかなえるから、高い薬だけどちゃんと誰でも使えるんだけどね。
認定医X:
しかし、これまで使えていたモノを、これからはNOです・・ってのもずいぶんですよねえ。
専門医A:
FDAはこういう結論を出したけど、米国の有名なNCCNの治療ガイドラインでは、6月にFDAからの勧告があったにもかかわらず、アバスチンとタキソールは未だに再発乳がんの第一選択薬として推奨されているんだよ。だから、アバスチンが使えなくなっては困ると考えている専門医達は米国にもたくさんいるのさ。今回のFDAの報告書の最後にも、このアバスチンがリスク・ベネフィットを著しく好転させる、ある特定の患者のサブグループはあるはずだから、そういう患者さん達を早く見つけ出し、アバスチンの有用性を示す追加の臨床試験をやりなさい・・って、だから決して米国でも全面的NOじゃないってことは、知っといたほうがいいよ。
認定医X:
なるほどそういうことですか。じゃあ、日本での影響は、まず、ないと考えていいんですね。
専門医A:
そぅ、そゆうこと・・あんまり慌てて混乱すると、ちゃんと使ってあげなきゃいけない患者さんにまで、アバソールを届けられなくなっちゃうぞ、さ、とっとと外来行ってこい! 今日も午前中の患者さんてんこ盛りだから昼飯食ぅ時間ないぞ、覚悟しとけよ!

某施設乳腺科の専門医Aと認定医Xの会話を数回にわたりお届けしました。この巻でおしまい・・です。お読みいただいてありがとうございました。

*注:FDA:食品医薬品局(しょくひんいやくひんきょく ; Food and Drug Administration)は、 食品や医薬品、化粧品、医療機器、玩具など、 消費者の日常生活の際に接する機会のある製品について、その許可や違反品の取締りなどの行政を専門的に行う米国の政府機関である。日本の厚生労働省に相当する。