医語よろしく
2008年1月〜
2008.9.17
残存乳房?
今回も乳房温存療法に関する話題である。
乳房温存治療は、日本では1990年代前半から普及し始め、現在は全手術例の約60%以上で行われており、すでに標準的な手術法になった。
今から15年近く前、日本での乳房温存療法の始まりの頃の話をしよう。それまでは乳房は全部切除する・・という手術が主流であったから、乳房を部分切除することによって残った乳房の中にがんが再発しないかどうかとか、その再発を防ぐために残った乳房に放射線をかけるべきか?などが、学会ではいつも話題になっていた。多くの発表者達は、残った乳房のことを「残存(ざんぞん)乳房」と呼び、残存乳房内にがんが再発をした、とか、残存乳房に放射線を照射する・・とかいう表現をしていた。

しかし術後の乳房のことを「残存」という言葉で表現するのは、あまりに野蛮でデリカシーに欠けてはいないだろうか?特に、患者さんや一般の人がこの言葉を聞いたとき、どんな印象を持つだろう?これではまるでモノ扱い。「残存する○○」という言い方は、古い歴史文化財とか絶滅寸前の動物種などを表すときに用いられる。かろうじて存在するとか、稀少なモノを表す印象があり、とても人の身体の一部を表現するにはふさわしくない。しかも乳房(前回の医語よろしく風にいえば、ちぶさ)という女性のとてもデリケートな部分を表す言葉としては、まったく不似合いな無神経な呼び方だと思う。わたしは当初からその呼び方に違和感と嫌悪感を感じでいたので「残存乳房」ではなくて、「温存乳房」と呼ぶべきだと、いろいろな場所で提案をしていた。

ある年、乳癌学会総会の会長をされていたご高名な某先生が、ご自分の会長講演の時にやはり「残存乳房」という言葉を使って話をされていたので、おしかりを覚悟で、乳癌学会から発行される会員向けのニュースレターの会員の声のページに、「温存手術のあとの乳房のことは、残存乳房でなくて温存乳房と呼ぼう。やっとこさで残った乳房ではなく、丁寧に温存された乳房だろう。本年度の学会長も残存乳房と呼んでいたが、温存乳房と呼ぶべきだ」・・と投書したのであるが・・

その後の反応は、例のBCFの若い仲間達数人から、先生の言うとおりだ・・と賛同はされたもののそれっきり。未だにどこの学会発表を聞いても、みな平気で「残存乳房」と表現している。この間は、患者さんや一般の人も聞いている市民公開講座の講演の時にも、残存・・・と喋っていた外科医がいて、吐き気がするほど情けなかった。

残った乳房、残した乳房だから残存で良かろうという発想らしいが、残ったなんとか・・・というのは英語で residual・・しかしそのあとに続くのはbreast(乳房) ではなくて、普通は cancer(がん)。つまりresidual cancer とは遺残がん、がんが残っている事を表現するのに使う。けっして residual breastとは言わない。一方 conserving 保存する、温存する という言葉を使ってconserving breast これが温存した乳房という意味である。こういう英語表現を見ても、残存乳房などという言葉はいったいどこから来たのか???のオンパレードだが、日本の多くの乳がん医者達は、残存乳房という言葉になんの違和感も感じていないらしい。

言っていることは同じでもここまで伝わるニュアンスが違うのに、なぜこの呼び方を続けているのだろう。不思議、かつ、同じ乳がん医者として情けないのであるが、これまた普通の人の感覚としては、皆さんどうお感じになるだろう・・・


イベント情報
医語よろしく
HOTひといき
セカンドオピニオンのすすめ
講演録・出版記事
関連情報サイト
がん患者SS(青山) TODAY !
オンコロジストの独り言
五行歌掲示板
ピンクリボンは乳がん撲滅
運動のシンボルマークです
ブレストサービス社は
ピンクリボン運動を応援します
乳がん検診を受けましょう!
Yahoo! JAPAN
   インターネットを検索
   ブレストサービス  
        ホームページを検索
お問い合わせ リンク規定 プライバシ−ポリシ− サイトマップ