医語よろしく
2006年1月〜
2006.11.13
 はてさて困った、術後のハーセプチン?
ハーセプチン※1は乳がん治療にきわめて有効な薬ですが、これまではがんが乳房以外に広がった患者さん、つまり手術後に再発した患者さんもしくは転移のために手術が出来ない進行乳がんの患者さんのみが健康保険の適応として使用されてきました。もう少し簡単に言うと、身体の中にがんの塊が確認された段階の患者さんが、ハーセプチンを健康保険で使用できる対象であったわけです

そのハーセプチンが、術後の再発予防のための薬物療法としても有用であるとして、世界的に利用されている治療指針※2に、この10月に新たに追加されました。つまり、塊がある状態で効果を発揮するだけでなく、目に見えない微小転移が予測される段階(手術後)で使うと再発の危険度を大幅に改善することが指摘されたわけです。

より高い治療効果を患者さんにお届けできるという点では、とても喜ばしいことではありますが、実は日本では健康保険の適応の問題で、目に見えない段階に対する投与、すなわち術後すぐの予防投与は認められていないので、さて、困った・・・ことが起きつつあるのです。

この世界的な治療指針は、スイスのSt.Gallen(ザンクトガレン)で2年に一回、乳がん術後の薬物療法の適応と具体的な方法を話し合う会議が開催されて、そこでコンセンサスを得られた治療方針なので、実は日本の乳がん診療に携わる先生方が、かなり参考にしている大切な治療戦略の決めごとになっています。(St.Gallenザンクトガレン・コンセンサスと呼ばれています)

2年に一回開催されるこの国際ミーテイングは次回は来年の初めに開かれる予定なので、あと数ヶ月も待てば通常のミーテイングの結果として報告されるはずなのに、今回のこの時期の追加発表は異例なタイミングなのです。それだけハーセプチンの術後投与に関する世界の臨床試験の結果がすばらしく良かったため、臨時ででも大急ぎで追加報告する必要があったのでしょう。どうやら米国ではこの発表の前後に、米国食品医薬品局(FDA)でハーセプチンの術後投与が認められるようになったらしいのです。

*2 St.Gallenザンクトガレン・コンセンサス


そのような決めごとで指摘されたのならば、ドクターは当然治療選択肢のひとつとして患者さんにお伝えしなくてはならないのですが、ではいざ、その術後にハーセプチンを使おうとなると、日本では術後の使用では健康保険は使えません。では、保険の適応がないのなら個人負担で・・となると自費診療ではかなりの高額になるし、そもそも保険診療と自費診療の混合診療は多くの病院では認められていないことから、・・結局「うちの病院では出来ません」・・となり、患者さんはハーセプチンの術後投与の有用性必要性を聞かされたけれど、そこの病院ではやってもらえない・・・じゃあいったいどうしたら良いんですか?という事態に陥るわけです。

ついこの間も、ある患者さんが主治医から術後の病状説明の際に、ハーセプチンが必要であると言われたけれど、その病院ではやれないので、どこかにやってもらえる病院はないのか教えて欲しい・・・との相談がありました。

保険病名に「転移性乳がん」もしくは手術中にとったリンパ節にたくさん転移があったからという理由で「乳がん腋窩リンパ節転移」という診断名を付けて、術後に使っている施設も全国にはあると聞いていますが、あまりおおっぴらにはされていません。またもし数少ないそのような施設に、術後にハーセプチンが必要な患者さんが集中したら・・・とてもでないですが、現実的にまかないきれるモノではありません。

当然ハーセプチンを提供している製薬メーカーも、術後治療としても使えるように適応追加を厚労省に認めてもらうべく申請中と聞きましたが、お役所の仕事なので、これまた日本でOKが出るのはまだ半年、1年先になるでしょう。

さて・・術後のハーセプチン、どうしますか?かくいう私も患者さんにどのように話し、どのように治療をお受けになることを提案しようか・・困っています。悩んでいます・・・


※1:
まずHER2という言葉から説明しましょう。
HER2とは、Human Epidermal growth factor Receptor type 2の略です。細胞の表面にアンテナのように手を出して細胞の増殖調整機能を担うもののひとつが、HER2のタンパク質です。乳がんの患者さんの4人に1人は、細胞膜の表面にかなりの量のHER2タンパクを有し(HER2陽性と呼びます)、乳がん細胞の増殖を促進しています。

ハーセプチン(トラスツズマブ)という薬は、HER2タンパクをターゲットにしており、がん細胞の増殖を抑えたり、がん細胞を死滅させる薬です。したがって、HER2陽性の患者さんに、ハーセプチンが適応となり、高い治療効果を発揮することが明らかになっています。


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