医語よろしく
2004年7月〜12月
2004.12.16
 絶妙な?腫瘍マーカー利用法
 各種がんに特異的な数々の腫瘍マーカーは、臨床上は様々なタイミングで測定され利用されているが、必ずしも正しい使われ方をしていないケースが、実は圧倒的に多い。よほど感度の高い優れたがん検出能を持つ腫瘍マーカーであれば、スクリーニングに用いられることでこそ本領を発揮するとも言えようが、それほどの腫瘍マーカーは今のところ乳がん領域には実在しない。

 本来腫瘍マーカーは、全身に散布されたがん細胞の数(volume)を反映する検査値に他ならないため、腫瘍量の少ない初回原発時や、再発が明確になるまでの経過観察の時期には、腫瘍マーカーが異常値を示すことはむしろ希れであり、本来ならばその正常値を根拠にがんの存在や広がりを否定することはできないはずである。しかし実際の臨床の現場では、実に絶妙に?腫瘍マーカーを利用している。

 「腫瘍マーカー正常、乳がんの心配なし」と乳がんのスクリーニング検査法として人間ドックや主婦検診のオプションに利用しているとんでもない検診屋も実在する。術後の定期検査に利用するのはきわめて一般的であり、「大丈夫、再発はなさそうだ」とか「転移は心配ないよ」などの言葉で、正常範囲内にある腫瘍マーカー値を都合よく利用することなど、どこの有名病院の乳腺専門医でも行っている。厳密にはそのような利用の仕方は当然、正しくはない。

 正常範囲にある腫瘍マーカー値が意味する臨床情報は、正しくは、「あなたの体の中に腫瘍マーカーが高値を示すほどの量のがん細胞は確認できませんでした」であるが、そんなまどろっこしい言い方をされた検診受診者や患者さんは、逆に不安を抱えてしまうだろう。とりあえず聞いた方も言っている方も?ひと安心できるのであればと、医師は間違った使い方であることを承知の上(?承知でない御仁も結構いるのだろうが)、実に絶妙にうま〜〜く利用しているのである。


 現実的に最も腫瘍マーカーが真価を発揮するのは、なんといっても進行再発乳がんの治療経過中、つまり塊としてのがんの存在が確認されているときである。CR、PR、stable などを正確に判定するには1ヶ月単位の画像診断が原則的に必要であるが、昨今の医療機関の混みようでは、検査の予約が数週間〜1ヶ月以上待ちなどという、恐ろしく機動性の悪い施設も決して少なくはなく、治験や臨床試験に該当する症例以外では、なかなか毎月検査などという原則は守りようがない。

 臨床の現場では、実際には毎月画像診断が必要というわけでもなく、その他の臨床所見(痛みなど自覚症状も含めて)だけで治療効果を判断することも多い。その際、仮に腫瘍マーカーが異常値を示していたとしたら、まさに、マーカー値の変動は腫瘍細胞数の変化を意味するので、その値だけで治療効果を判断する十分な根拠になる。そればかりかマーカー値が順調に減少しつつある治療法は、それだけで効果ありと判断して画像診断を省略することさえ可能である。

 もちろん血液検査としての誤差範囲で変動することもあるが、実は正常値を超えた腫瘍マーカーの動きは、ほとんど確実に実際の病状の変化を反映しており、進行再発乳がんの治療効果の判定根拠として利用されるこのタイミングこそが、腫瘍マーカーが本領発揮できる唯一のタイミングとも言えよう。言い換えれば、腫瘍マーカーは「腫瘍塊が存在し、かつ異常値を示している」時にのみ、検査としての意味があると言える。

 腫瘍マーカー=(イコール)腫瘍量:がん細胞量と考えるべし・・とするもう一つのたとえをあげよう。乳がんが再発するまでの期間、定期検査で腫瘍マーカーを検査していたのに、なぜもっと早く再発を発見できなかったのかと、不信感たっぷりに尋ねてくる患者さんがいる。「あなたの場合は腫瘍マーカーがあがらないタイプのがんだから・・・・」などと、しどろの説明をする程度の低い医者もいるが、腫瘍マーカーが高値を示すだけの再発巣のがんの腫瘍量がなかっただけの話である。再発巣、全身の転移巣が徐々に増え、病状も悪化し全身状態も悪くなっていくと、マーカー値は必ず高値を示している。マーカー値が正常値のまま原病(乳がん)死した患者さんには、未だお目にかかったことはない。

 腫瘍マーカーと各種画像診断、さらに臨床症状まで含めて、いったいどれが一番感度の良い再発発見方法なのか・・という議論がよくなされる。正直なところ、再発臓器、再発部位、再発巣の大きさや正常組織の破壊の程度など個人差があり、どの方法が再発発見契機になるかは様々なので明快な答えはない。昨今術後の定期検査は極力省略しようという傾向があるが、再発を早期に発見してもその後の生存期間を延長させる効果がない・・かららしい。その背景には微小な転移巣を検出できる検査法が存在しない現在の診断レベルがあり、腫瘍マーカーとて同じく術後定期検査としては省略される運命にある。個人的には、わずか数千円程度の負担で採血程度の浸襲でとりあえずの安心感を与えられるのであれば、腫瘍マーカーくらいなら・・・と考えてしまうが、実は「絶妙?・・」の域を脱していない。

 なお、乳がんの腫瘍マーカーとしては数種類が知られており、その組み合わせ方は各施設によってまちまちである。しかし、現実的にはBCA225はCA15−3と同じような数値の動きを示すため、その両者を組み合わせることは意味がないし、また感度が良過ぎて誤陽性が多いST439は必ずしも実用的とは言い難い。ASCOでも乳がん腫瘍マーカーのガイドラインとして2000年時点から推奨されているのは、CA15−3とCEAの2種類であり、たしかに乳がん特異性や再発乳がんでの陽性率などからこの2種類の組み合わせが最も実用的と思われる。この2種類の中ではCA15−3の方が感度が良く、再発時には先に異常値を示し、CEAは後から上がってくるというパターンが多い。

 我が国の保険診療のなかでは、悪性腫瘍特異物質治療管理料として、月に一回限り腫瘍マーカーの測定が認められているが、その項目は2項目までの点数算定であり、何種類のマーカーを採血してもその算定点数は2項目を超えれば一律である。臨床的には情報として多くの腫瘍マーカーの測定が望ましいように思われるかも知れないが、実際にはCA15−3とCEAの2種類の測定だけで必要十分、つまりそれ以外の腫瘍マーカーを追加して測定することはあまり意味はないし無駄である。

 絶妙の腫瘍マーカー利用法、ご理解いただけたであろうか?

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