医語よろしく
2004年7月〜12月
2004.8.31
 ボストンからの近況報告「乳がんチーム医療」・・
 米国ボストン留学中の佐藤先生から、また新しい原稿をいただきました。佐藤先生の留学も後ひと月ほどを残すだけとなり、今回の原稿は乳がん診療におけるチーム医療に関するご意見ですが、先生の1年間の臨床留学の集大成ともいえる充実した内容です。どうぞご覧ください

宮内先生・・
 私のボストンにおける臨床留学も残す所あと2ヶ月となりました。(原稿は7月中にメールでいただきました)この10ヶ月本当に多くのことを学んできました。今回の日本の乳癌学会のテーマの1つであった「チーム医療」ですが、よい点と困難な点を私の視点からお話しようと思います。

 多くの方が御存知のように、日本の多くの施設では、乳がん患者さんの治療の中心にいるのは(乳腺)外科医です。外科医がマンモグラフィーの読影を行い、生検をし、手術方針を決定。手術後は抗がん剤やホルモン剤による補助療法を行い、不幸にも再発した場合には、それに対する治療や一部終末期医療まで行います。

 そのような日本の医師の仕事をサポートする形で、看護師や薬剤師がおり、彼等には彼等の本来の仕事があり、積極的に関わってくる施設もあればそうでない施設もあるのが、現状ではないかと思います。私のところ(防衛医大付属病院)もそうであり、今の医療システムからは、私の帰国後も、原則的には今までと同じようにやっていくことと思います。

 しかしながら、医学の進歩に伴う医療サービスの多様性、各分野におけるその進歩の速さから、外科医が今までのように全て行うには能力的にも時間的にも限界があり、サービスの質の維持には、各分野のスペシャリストがそれぞれの方向からサービスを行っていくことは、至極当然の流れであります。

 一例として、MGHにおけるpain service(日本で言うペインクリニック、疼痛緩和を目的とする診療科)のことを御紹介します。毎週月曜日の朝8時から私は回診に参加しているのですが、昼12時から1時までの会議の時間を除き、夕方4時頃まで15-20人程の入院患者さんの疼痛管理を行います。その中心は研修医を終えたfellowとNurse Practitioner (Annabel Edwardsというなんでも知っているとても凄い人)で、毎日回診と治療を行います。それを監督、教育という形でAttending Physician(病院staff)が週2回入れ代わりチームに参加します。従って、火曜日の回診は異なるAttendingが参加する形になっています。

 Attendingの背景も様々で、皆Pain ServiceのStaffですが、もともとは麻酔科であったり、脳外科や精神科など様々で、1人の患者さんに10-30分時間をかけて回診を行います。 転移性乳がん患者さんに対する疼痛管理を勉強しようというのが、きっかではじめた私のpain serviceへの参加ですが、その奥の深さにずいぶん驚かされました。

 がんの終末期においては、殆どの患者さんが自宅でその時期が過ごせるよう(visiting nurseの制度がしっかりしており病院で亡くなる患者さんは少ない印象です)、しっかりコントロールをつけてあげます。どの患者さんも、非常に満足をしており、チーム医療の効力を実感しております。

 少し興味深いのが、患者さんと長々と会話(家族の話なども)したあと、Attendingが”F2R”と記録していきます。これは何か尋ねた所、ややいいにくそうに保険会社に料金を請求するコードだそうです。長くdiscussionした場合は”F3”、短い場合は”F1”。確かにこれなら、患者さんの話をゆっくり聞いてあげることもできるなと思いました。

 しかしこのようなチーム医療にも問題点はあります。まず、患者さんの側からですが、どうも混乱しているようです。様々なチームが入れ代わり立ち代わり関与してきますので、よっぽど患者或いは家族がしっかりしていないと、チームに振り回されている印象すら受けます。各チームが各々の患者の治療方針から全て把握するのは、事実上不可能です。患者さんにとっては、こちらは自分のことを全て知っているものと思っている場合もあり、そこに食い違いが生じることもあります。また、患者さんは多くのstaffを認識しておかねばならず、staff全員の名前を覚え、かつその人は自分に何をしてくれる人か把握しておかなければなりません。

 医療側からの問題点としては、チーム間の情報交換の困難性です。病棟でたまたま会えればよいのですが、連絡事項はカルテを通して行いますし、必要があれば、E-mailも使います。但し、私の目からは十分とは思えず、実際十分に連絡がいっておらず、全く異なる方針で治療が施されている場合も幾度か体験しました。

 このような状況を経験していたため、チーム医療をどのような形で日本に紹介或いは導入していったらよいのか、悩んでいました。

 そのような最中、Dana-FarberのBreast OncologyのHal Brustein先生(以下Hal)から、「Kazu(佐藤先生の米国のニックネーム、佐藤一彦先生のカズでしょう)日本人はTamoxifen(タモキシフェン、有名な抗エストロゲン剤)が嫌いなの?」と声をかけられ、一人の日本人患者さんを紹介されました。文化の差から乳がん治療に戸惑いを感じておられる患者さんがおり、一緒に乳がん治療を行うこととなりました。

 その患者さんから、私は実に多くのことを学んだのですが、その一つが予想していたチーム医療の問題点でした。こちらでは患者さんが医療の中心であり、何ごとも自分で決定していきます。逆に、なんでも自分でやっていかなければなりません。マンモグラフィーの予約から、生検の予約、等等。そして、各部署では同じことを何度も繰り返し説明しなければなりません。日本人的な感覚では、医療側は全てそれを把握しているのが当然であり、このような説明の繰り返しは、安全のための確認のように感じられていたようです。しかし、どうもそうではなさそう、医療側は本当に知らないのだということが明らかになり、それが若干の不信感にもつながっているようです。

 そういえば、pain serviceでも現在の治療内容や今後の予定をカルテではなく患者さんから直接情報入手していたことを思い出します。

 チーム医療において欠かせないのは、医療側のみの改革だけではなく、文化的背景に基づいた患者さん及びそれを支持する社会的変革が必要であると認識しています。

 チーム毎に作業を行うことは、こちらでは医療に限ったことではなく、企業も全く同様のようです。先日、長年New Yorkで企業人として働いている私の従兄弟に聞いたのですが、医療における日米の差は企業においても全く同様のようです。チームの統合を実にうまくやっている企業があるそうです。Dana-Farberのrisk managementの部署でも同じ名前が挙がっていました。「トヨタ」です。ここ米国は「トヨタ車」ばかりです。本邦におけるチーム医療の実践のヒントは、実は近くにあるのかも知れませんね。

 難しい話は、今回はこのくらいにして、この前先生と僕の友人である見張りリンパ節のDavid Krag先生(以下David)の家に遊びにいってきました。私の親友である脳外科の長川一家と併せて総勢8人で押しかけました。米国で成功した外科医の姿を垣間見たので少しお話します。

 御存知のようにDavidはVermont大学の教授ですので、大変田舎に位置しています(失礼?)。まあ、こんな田舎に住んでいるのだから、皆で押し掛けても家が狭いということはないと思って、皆で行くことを願い出たのですが、快く応じてくれました。ただ、「ボート遊びをするから、軽装できてね。それから、水着も持ってきてね。」といわれ、「きっと、近くの湖にでもいくのだろう。それにしても、ボートがあるとはいいな。」位の気持ちで準備していきました。勿論、子供達は大喜びです。

 Davidの家はVermont大学(VMU)から、車で30分位の郊外にあり、かなりのどかなところです。家につくと早速Davidが迎えてくれましたが、なんと家の庭にちょっとした湖(池?)とそこに注ぐ小川がありました。そこには確かにボートがあり、その湖を含めた一面が庭になっています。Davidの次男のChiristpherが早速子供達の相手をしてくれて、庭でかくれんぼやら鬼ごっこをやりはじめました。湖に面して広い斜面があり、冬はそこでスキーをするそうです。

 次は、プールへ行くことになりましたが、なんと家の中に20m程の温水プールがあり、私達はDavidと一緒にプールの中でビールを飲み始めました。そこから、夢のように楽しい時間が過ぎたのですが、一つだけ印象に残った彼の言葉がありましたので紹介します。。

 少々リラックスしてきたので、ちょっと失礼とは思ったのですが、「なんでこんな田舎にいるのに、乳がん治療を変革するような仕事ができたの?Davidがボストンにいるのならよく分かるけど?」と聞いてみました。彼曰く「僕達の目標は非常にシンプルなんだよ。“がんを治癒する”ということがゴールなのだから、そのシンプルなゴールに向かって、行うことは決まっていて、それはボストンにいようが、ここであろうが、どこでもできるんだよ。」

 大変感銘を受けました。そのあと、芸術家でもある奥さんのJesusaとのおのろけ話しにも興じて、恋愛論など語りつつ(途中、長川先生は高いびき)、在米中にもう一度遊びに行くことを誓い、帰宅致しました。
 Davidのいうように、目標は非常にシンプルなわけですから、どこからでも、どのような形でも、それに向かって進んでいくことができるのですね。宮内先生のような方向からでも、私のような方向からでも。
 あと、2ヶ月、頑張ります。


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