医語よろしく
2003年9月〜12月
2003.9.17
 乳がん検診の不備報道に思う・・・
いよいよ、風が吹き始めたね・・・一連の、乳がん検診体制の不備に関する報道を見て、これまでの日本の乳がん医療の「片手間感覚のお粗末さ」が浮き彫りにされて、いよいよ本腰入れてまじめに取り組んでもらえるチャンス到来という印象をもちました。

皆さま新聞記事に関しては、良くご存じでしょうが、一連の記事をざっとおさらいしておきましょう。
  • 乳がん検診で数年間にわたりがんを見逃され、余命半年の宣告を受けた患者さんが、乳がんの専門医でない開業医での検診体制に疑問を投げかけた。
  • その記事に対して、全国から600件以上の投書が相次ぎ、ずさんな乳がん検診体制が暴露された。
  • 良くトレーニングされていない専門外の医師による乳がん検診が各自治体の判断に任せて平然と行われている現状。
  • 本来、触診だけでなくマンモグラフィーX線撮影(や超音波)などの画像診断を併用すべきであるが、その撮影装置はまだまだ普及しておらず、装置の基準も満たされていないモノが約半数。しかも撮影技師や読影医師のトレーニングも不十分。
  • 検診の主体は未だ「視触診のみ」であり、また痛みのあるしこりはがんでない・・の迷信により、誤診が頻発。
  • 乳がんの専門科は「外科・乳腺科」であるが、婦人科が専門科であると考えているひとが非常に多い。
  • 乳がんを専門的に診療できる体制が不備のため「乳腺専門科(例;乳腺外科)」の表示は禁止。乳癌学会などの専門医のアナウンスも禁止されており、患者さんの数に比べると、乳がん専門医の数は全く足らず、専門科の表記に関する「感覚」も追いついていない。
などの記事が「見逃された乳がん・・・」の副題とともに連載されているのです。

9月8日には、「見落としが続いている乳がん検診のあり方について、視触診のみの検診を廃止して40代から乳房X線撮影(マンモグラフィー)を全面的に導入するなど、厚労省が大幅に検診体制を見直す方針を固めた。という行政側のレスポンスの記事もありました。

一人の勇気ある患者さんの投書のおかげで、メデイアが問題提起したことにより、行政までが「かわる」ことを約束してくれたのであれば、今後一気に日本の乳がん医療が急速に充実していく原動力になるはずです。

しかし報道の裏側には、僕ら専門医が見ても明らかに素人の一般の方達は間違って受け取るであろう表記も散見されました。たとえば、しこりや痛みなどすでに症状のある方は、「検診」ではなく医療機関の「検査」を受けるべき対象であるのに、しこりがあるので新聞に書いてあるように専門の病院に検診(検査ではない)に来ました、という患者さんが後を絶ちません。

また、痛みのあるしこりを「がんは痛くないから」と見逃されたという記事からは、「痛みがあるしこりはがんである」かのような印象をあたえられ、「痛くても心配ないです、がんはありません、通常の乳房の張り感などから来る痛みです」と何度説明しても、新聞に痛みはがんの可能性があると書いてあったの一点張りの患者さんも決して少なくありません。

また、よその施設で検診を受けたけれども、そこの先生は産婦人科医で専門でないし、マンモグラフィーの読影資格も持っていないので、もう一度こちらで検診をやり直して欲しい・・笑い事でなく、こういう方も、もう何人もお見受けしました。産婦人科の先生は乳がんの専門でないから乳がん検診を引き受けるべきではないという記事のせいですが、もちろん趣旨はよくわかります。がしかし、僕の知り合いの産婦人科の先生方は、乳がん検診に来られた方にはご自分で必ず超音波検査をして少しでも所見があると(ほぼ全員に近いかも)、「専門の先生に精密検査をしてもらってきなさい」と、紹介状を書いて必ず僕の所に受診させてくれます。こんな先生になら「来年の検診もそちらの先生にしっかり見てもらったので十分ですよ」と、安心してお任せできるという産婦人科の先生方も、実はたくさんいるんです。

報道(情報)の裏側にはこのように予期せぬ解釈を与えてしまう危険性はありますが、しかし少なくとも、これらの報道の主たる意味合いは、医療機関も医療従事者も一般の方も患者さんも、日本中すべての方達に「乳がん」をまじめに考えて検査を受けよう、診療にあたろうという、意識付けをしてくれているモノと評価できます。

しかし、水を差すようですが、これらの意識付けを100%反映する理想の乳がん検診環境はいかなる状態であるかを、イメージしてみましょう。

「乳房に症状のない全くの健康と思われる40歳以上の女性は、マンモグラフィー検診精度管理中央委員会が「読影能力が高い」と認定するB級以上の読影資格を持つ乳癌学会専門医のいる{乳腺専門科(乳腺外科など)}の看板が掛かっている医療施設で、研修後に認定されたレントゲン技師が基準を満たすX線装置を使って撮影したマンモグラフィーフィルムの読影を中心とした乳がん検診を受ける・・・ことが望ましい・・・」

となるわけです・・・

・・・・・????  はっきり言いましょう。・・・不可能ですね、現時点では。このような資格を有する病院、専門医は多くは大学病院、がんセンター、大病院などに集中していますので、そのような医療機関ではおおくは「検診」はしてくれませんよ。また市中の一般病院でこのような条件で検診が出来る所はほとんど数えるほどですし、またそのような施設では現時点でもパンク状態で検診をこなしているので、その上に今の何十倍の「検診受診者」が殺到してくることは・・・非現実的状況としか言えません。

これを果たして、どのように解決していくのか??行政の手腕の見せ所です・・・が、金も出さずに(地方自治体の一般財源からの検診予算が一気に増えるとも考えにくい)ガイドラインや指導だけ立派なモノを突きつけて、現場の状況とあまりにかけ離れた理屈だけの体制作りにならないように願いたいモノです。

この「風」は日本の乳がん医療のためには、間違いなく「追い風」ですが、現にまじめに乳がんの診療をやっている我々専門医にとっては「厳しい向かい風」にならないように、皆でひとつひとつ最善の道を探していきましょう。

今回のニュースの最後に、この報道に関連して僕の所にいただいたメールの一部を皆さまにご紹介いたします。また文末には、この一連の報道の火付け役になった患者さんからの投書を扱った新聞記事(抜粋)をあげておきます。


1.ある乳がん患者さんより・・その1

私はいわゆる乳がん検診というのは一度も受けたことがないので、そのシステム(申し込みの仕方とか、どこで受けるのかとか)をぜんぜん知らないのですが、専門外のお医者さんも多く検診を行なっているんですね。検診医の選定等は地元の医師会に委託されていて、市や県の職員はあまり内情を把握しておらず、ゆえに口出しもできない感じ。人材や資材の不足などもあるのかもしれませんが、余命が限られる程の見落としが起きてしまうのでは、やはりなんらかの対策を講じる必要があるように思いました。それにしても行政って、この乳がん検診に限らず、被害者が出るまで問題を認めない傾向にあるのが、本当に頭にきます。

2.患者さんからーその2

先生のホームページ楽しみに拝見しています。8月24日の朝日新聞に「乳がん健診で見落とされ・・・千葉市の女性」の記事が掲載されていました、「なぜ市の検診の指定機関になっているのか。・・・」などなどとありましたが、やり場のない気持ちでいっぱいなのですね。早く他のところで検診を受けていたらとも思いました。私は、先生で本当に良かった。ありがとうございました  追伸 先生わが町の乳がん検診で、マンモの読影ありがとうございました。これからもよろしくお願いします。
(解説:この患者さんは千葉県内のある市町村で保健、検診業務に当たられている方で、僕がその市町村のマンモグラフィー検診のフィルムを読影していることを書いておられます。)

3.患者さんよりーその3

マンモのフィルムを読影できる専門医がいなかったり、絶対数の少ない田舎の地方自治体はどうやってやるんでしょうね・・・。
理想に一歩近づいたってことは事実だと思うので、喜ばしいことです。

しこりがあったらとにかく専門医を探して受診、なにも自覚症状がない人は一般検診に行きなさいってもっと啓発してほしい気もしますが・・・。
マンモでの検診になっても、今までのような無料やわずかな自己負担でできるのでしょうか。いろいろこんなお話もうかがいたいです。

4.あるドクターより

このところ乳癌関連の話題が新聞紙上を賑わせていますが、先月末の記事で、千葉県在住のある患者さんの話が載っていました。その内容から、専門医でない(しかも何のトレーニングも受けていない産婦人科医)医師の見落としで余命幾ばくもない患者の無念さが伝わってきました。しかも最近、他機関で見落とされた症例を続けて目の当たりにしていたため、強い憤りを感じました。

最後に朝日新聞の記事(抜粋)を掲載します。
「胸のしこり検診素通り・医師未研修」
乳がんが見つかる人は年3万人を超え、毎年増え続けている。一方、早く治療すれば、回復の割合が高いのも乳がんの特徴。しかしその検診態勢は必ずしも十分ではない。千葉県に住むある患者さんのケース。
94年「乳腺症」→99年「脂肪の塊」→01年「悪性」

 3人目の出産をした産婦人科診療所で、気になっていった乳房のしこりについて尋ねた。触診後、医師は「乳腺症でしょう」と答えた。
 5年後の99年夏。しこりが痛みだした。30歳以上を対象とした市の乳がん検診を受けた。出産した産婦人科が指定医療機関になっていた。
 「痛みがあるんです」
 医師は触診だけでなく超音波(エコー)検査で調べた。
 「乳がんは痛まない。脂肪の塊です」
2年後の01年の秋、しこりがはじける感覚が出現。5センチ以上のしこり・・またあの産婦人科医院を訪ねた。
 エコー画面を見る医師の顔が一瞬曇り、専門病院での精密検査を勧めた。数日後、大病院でしこりの組織を調べ、結果は「悪性のしこり」

12月、摘出手術。径7センチのがん、摘出したリンパ節すべてに転移していた。
 資料を読みあさった。乳がんは長い時間をかけて成長する。あの時なぜ産婦人科医は見逃したのか。産婦人科は乳がんの専門科ではないという。では、なぜ検診の指定機関になっているのか。

今年6月、エコー検査で肝臓の転移が判明した。余命をたずねると、主治医は言いにくそうに「半年です」と。

7月。以前、乳腺症と診断した産婦人科医を訪ねた。
「先生はエコーに自信があるのですか?」しばらくして医師は答えた。
「得意ではないかもしれません」。研修も受けていないらしい。
「しかし私は今後も検診を続けます」産婦人科医は続けた。
 コピーさせてくれたカルテには、一言だけ「乳腺症か―」との検診結果が記されていた。

 半年、どうやって生きよう。産婦人科医を訴えようか。だが、いやな思いをして半年を過ごすのもいや。  厚生労働省や市役所を訪ね、検診制度見直しを訴えた。動いてくれるかはわからない。だが、仕事を続けながら訴え続けようと思う。家族には寂しい思いをさせるが「残された時間は短いから・・」患者さんは涙ぐんで語ってくれた。


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