医語よろしく
2003年5月〜8月
2003.6.15
 乳がん新薬(カペシタビン・ゼローダ)登場・・・
6月6日、乳がんに対する新しい治療薬カペシタビン(商品名:ゼローダ中外製薬)が薬価収載され(厚生労働省でくすりの値段が決められること)、具体的には6月24日から臨床の現場にお目見えします。つまり乳がんの患者さんにとっては通常の保険診療で受けられる治療の選択肢が一つ増えるというわけです。

これまで日本の乳がん治療の土壌には、あまり副作用も強くなくて簡単に飲める治療薬として、5FU:フッ化ピリミジン系、という経口(飲み薬)の抗がん剤がさかんに使われていた歴史がありましたが、実はこれら何種類かの経口5FU薬は日本以外の外国ではあまり使われていませんでした。EBM(エヴィデンスベーストメデイスン:根拠にもとずいた治療)の考え方の普及から、どちらかというとその他の注射薬の抗がん剤による治療法がどしどし評価され、一般的な乳がんの治療薬としては、5FUの経口薬は世界的にはそれほど高い評価を受けていたわけではなかったのです。このゼローダという薬はこのような経口5FU抗がん剤の仲間ですが、より副作用を改善させる工夫がなされた世界で評価された新しい薬なのです。

経口の5FU抗がん剤は、日本以外には世界的にはほとんど使われていなかったと書きましたが、乳がんの患者さんがべらぼうに多く、また国を挙げての乳がん対策にもかかわらず、多くの患者さんが乳がんで命を失ない、さらに注射剤の抗がん剤による医療費が高く、病状が重たくなればなるほど治療費(お金)もかかり、そんな状況下にある米国でこのゼローダがお目見えするときに、先のクリントン大統領のツルの一声で、異例の超スピードでFDA(米国食品医薬品局:日本の厚生労働省のような薬の認可機関)で承認がおりたと言ういきさつがあります。米国だけでなくこれまで注射薬を中心とする乳がん治療が一般的であったヨーロッパの各国でも、ホームケモテラピー(自宅で出来る抗がん剤治療)として、1997〜8年頃から一般の臨床で使われはじめていましたが、日本ではようやく今回実臨床にお目見えするようになったわけです。

実はこのゼローダという薬は日本生まれなのです。つまりある世界的な製薬会社の日本の研究所で開発された薬ですが、すでに世界100カ国もの国々で使われていたのに、どうして日本ではこんなに使われ初めが遅くなったか・・・と言うと、実は先にお話しした日本の土壌にはすでに何種類かの経口5FU抗がん剤が使われていたことが、その大きな原因の一つなのです。

もうすでに使われている薬があるにもかかわらず、その仲間である新薬のゼローダをあらためて薬として日本で認めるだけの必要性があるかどうかで、お上(厚生労働省)がずいぶん難色を示した・・経緯があるらしいのです。

これらの5FU系の飲み薬の抗がん剤は、腸から吸収されてから目的とする乳がん細胞に到達するまでに体の中のいろんな場所でさまざまな酵素による何段階かの代謝化学変化を受けて最終的に5FUとして抗がん作用を発揮するのですが、どの臓器でどのように吸収、代謝、処理されているかによって副作用の出方がかわってくるわけです。言い換えると、これまでの抗がん剤では、白血球が下がってばい菌に弱くなったり、腸の粘膜に悪さをして下痢をおこしたりする副作用があったのですが、そのような副作用を考慮しそれぞれの臓器で行われるこの薬の代謝を考えて、最終的にがんの細胞の中で5FUの濃度がもっとも効率よく高濃度になるように工夫された薬です。

患者さんからみれば、治療の選択肢、治療薬の種類が増える事は何よりも治療チャンスが増えるという意味でとても喜ばしい事であるはずなのに、しかも副作用を考えて患者さんにより優しい薬にバージョンアップさせた薬であれば、一刻も早い登場を望まれていたことはおわかりでしょう。しかし結局は、すでに日本では多くの5FU系抗がん剤が使われていたため、医療費削減とか同系列薬整理などの社会的な背景が原因して、日本での承認が(開発した国にもかかわらず)世界の多くの国に数年も遅れてしまったわけです。

さてさて、これほど待ち望まれた薬なのですが(新薬という表現は聞こえは良いんですが、世界各国に比べて日本で使われ始めるのが極端に遅かったと言うことを裏返しに意味します。つまり日本での「新薬」はアメリカでの「標準治療薬!」っていうだけの、かっこわり〜話にすぎませんが)乳がんの患者さんには誰でもかれでも使用してよろしいというわけではありません。まず、治療薬としての評価をきちんと受けている使い方で使ってください・・と言うただし書きがあります。

具体的には、病状が比較的進んで手術が適応にならない患者さん、もしくは再発した患者さん、がこのゼローダの対象になります。

また、これまでの標準的治療の一つであったアドリアマイシンという赤い注射薬の抗がん剤をすでに使ってある患者さん、つまり、ゼローダを使うのは、まずはこれまでの一般的な治療薬を使ってからにしてください・・・ってことデスヨ。

またさらに、最初はこのゼローダだけを単剤で使用すること、すなわち、最初っからあの薬この薬と一緒にゼローダを使うことは安全面が確認されていないので、まずはゼローダだけで使ってください。・・・

ってなような、但し書き付きです。しかしよくよく考えてみると、新しく使われ始める薬はこのゼローダに限ったことでなくて、どの薬もこのような病状が比較的重たい患者さん(段階)からゆっくりと使い始められ、薬の効き具合とか副作用の出方とか、患者さんの飲みやすさとか飲みにくさとか、いろんな事がたくさんわかってくると、つまり薬としての歴史が長くなるにつれ、良い薬であればどんどん治療上の流れとしてもっと早い時期(たとえば手術直後の再発予防のための使い方:補助療法)に使われ始めたり、より優秀な治療効果を得るためにこれまでにすでに使われている他の薬と組み合わせて使うようになったり、使い方にも幅がでてきて、ひいては患者さんの治療効果がより期待できることになるんですね。だから使い方は、焦らずあわてないで、じっくりゆっくり、良い薬であることを確認していくことが必要です。

BS社のHPでもさかんに話題になった、肺がん治療薬イレッサの使い始めの頃、いろんな面で勇み足があったことで、逆に薬のイメージが悪くなりかけてしまった経緯があることは、皆さん記憶に新しいことでしょう。

がんの治療薬自体は、そんなに次々と湯水のごとく開発されるわけではありません。がんの新薬開発に携わっている製薬会社の研究者が、一生のうちでたった一つでも、薬として実際に世の中にお目見えするものが開発出来れば、それは研究者としてはとても幸運なんだ・・・って聞いたことがあります。そのくらいたくさんの壁を乗り越え、さらに世界的にも評価されている優秀な薬が、評判通り患者さんのお役に立てるように、確実に利用されることを望みます。

多くの乳がんの治療をお受けになっている患者さんに、また一つ乳がん治療の選択肢が増えましたよ。安心してしっかり治療をお受けください。

よかったよかった。

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