医語よろしく
2003年5月〜8月
2003.6.15
 乳腺細胞診「2番」と言われても?・・・
ここのところ医療相談に来られた患者さんが立て続けに数人、乳腺の代表的な検査方法である「細胞診」に関係した不安をお持ちでしたので今日はそのことをお話ししましょう。

まず、患者さんの声を聞いてください。
「私は以前から乳腺症・・・って言われて、左のここのところがごりごりしていて時々痛くて、半年ごとにもう3年くらい、そのたびに細胞の針の検査をしてるんですけど、いつも細胞診「2番」って言われて、1は正常、2はちょっと正常からはずれて良性、だからいつがんになるかわからないから、また半年ごとに針の検査に来なさいってって先生から言われているんですが、不安でしょうがないんですけど・・・」

もうおひと方です。
「私は細胞の検査で、しこりは悪性の乳がん、5段階のステージが5、私はとっても悪い状態のようなのでもう長生きできないとあきらめています。」

・・てな具合で・・ちょっと待ってください、おふた方とも。ずいぶん細胞診で脅かされていますね、主治医の先生に。

まず、細胞診ってどんな検査かをご説明しましょうか。細胞診は針を刺して採れてくる細胞の顔つきを判断して、がんかそうでないかを判定する検査です。多くの場合針を刺して細胞を採るのは主治医の外科医(乳腺科)の先生ですが、その細胞がスライドガラスに吹き付けられて、特殊な染色法で染められて、それを顕微鏡で見るのは特殊なトレーニングを受けた細胞検査士の技師さんとそれを指導する指導医の先生もしくは病理の先生。つまり刺した先生とその細胞をみて判定して報告書を書く先生とは、違う先生なんですね。

だからどういう事が起こるかというと、針を刺した主治医の先生が欲しい情報は、そのしこりは「がんかどうか、手術などがんの治療をすべきか、それともがんではなくてそのまま放っておいて良いかどうか」が知りたいことなのに、ところが細胞の結果を報告する先生は、がんかどうかってはっきり書いちゃうと、これはもし診断が間違うと自分の責任になっちゃうでしょう。つまり「がんです」って書いて、いざ主治医の先生が手術で切ってその後よく病理の検査でみてみたら、実はがんじゃなくて良性のしこりだった・・・ってなったら、細胞診をみて結果を書いた病理の先生が誤診したことになるでしょう。だから、みんなそうは書きたがらないんです。

そこでどうしたかって言うと、細胞診をみる側の先生は、採れてきた見えている細胞の顔つきを5段階評価して、いかにその細胞が「がん」の顔つきにふさわしいかを5段階に判定しているんです。だから、細胞診5って付くと(正式には、細胞診5とか細胞診5番とか細胞診5段階、とかそんな言い方はしません。正確には、細胞診はクラスX(なぜかローマ数字)と表現して、つまりクラスclassで判定を報告します)、この細胞の顔つき分類は5段階評価の5だから、この細胞は限りなくがんの細胞に間違いないです。・・・って意味です。

後の方の患者さんに、・・そういうことで細胞診の5段階目って言うのは、細胞の顔つきはまずがんに間違いございません・・っていう意味だけであって、あなたのがんが進行が早いとか、病気が進んでいるとかいうこととは全く関係ありません。病気の進み具合はむしろ、しこりの大きさや脇の下のリンパ腺の飛び火の具合から判断されるものなので、細胞診で病状が進んでいるなどというご心配は全く必要ありません。

細胞診クラスT(クラスワン、つまり1段階目って事です)っていう評価は、限りなくがんの細胞の顔つきからはほど遠いです、大丈夫そうな細胞の顔つきですって言う評価なワケです。

しかし、その辺の数字の示す表現の意味や、具体的にどんな病気(しこり)のときに、クラスいくつにするかと言う明確な定義はいっさいありません。報告書を書いた側と報告書を読む側の主治医の先生との間で、単なる数字でしか細胞診の結果を判断しなくなると、全く検査が持つ意味合いがねじ曲げられちゃうわけです。

ですから、たとえば授乳中の活発に活動している元気な細胞が、もしなんの臨床的情報もなしに、あまり細胞診を見慣れてない先生がみたら、ありゃこれは普通みられない細胞だワイ、だからこれはひょっとしたらがんの可能性があるのでクラスV、となると、今度は細胞診のなんたるかを余りよく理解していない報告書の数字しかみていないお粗末な臨床医の主治医がその「V」という数字をみて、こりゃがんの可能性もあるぞたいへんだ・・・ってなっちゃうわけですよ。また最初の方のようにおそらく良性の乳腺症か線維腺腫という病状でしょうが、クラスUなんて言う評価で、正常な細胞ではないから・・なんてお伝えする主治医の先生は、はっきり言って乳腺専門医としての診断レベルは最低ですね。

もっと言えば、実際に細胞診の結果を患者さん達に伝える側の先生達はやるべき仕事は、その細胞診の判定を受けて患者さんのお乳のしこり(病気)がいったい何と言う名前ので、どんなしこりで、これからどうしたらいいかをお伝えすべきであって、細胞診の判定の数字そのものをお伝えすることは全くナンセンスなわけです。患者さんにはクラスUであろうが、クラスWであろうがそんな数字を知りたいんじゃなくて、自分のしこりは「何」で「どうすべきか」が知りたいんでしょう?

採血検査をして、コレステロールの値が250・・それだけ伝えてハイさようなら・・っていう内科の先生はいないでしょ。まずその値は異常かどうか、食事はどうしてる?運動は、体重は、食生活は。だからそうしなさいとか、薬をどうしようとか・・治療を必要とするのかどうかって・・そこまでお伝えするのはあたりまえで、数字はあくまで検査値、それだけ伝えておしまいなわけないでしょ。細胞診だって同じですよ。

はっきり言いましょう。乳腺の細胞診の結果を数字だけで患者さんにお話しする先生の診断は、あまり信用されない方がいいかもしれません。

乳腺の細胞診のクラス分類はこのように非常に曖昧な表現の仕方で、誤った使われ方をしており混乱を招いているので、実は、次の乳がん取り扱い規約(乳腺疾患をきちんと診断治療するための、言葉の定義や検査の報告書や所見用紙の書き方などを規定したもの)の改訂の際には、クラス分類でない新しい細胞診の表現の仕方が推奨されるはずです。

細胞診の事で誤解をされている患者さんへ、もう一度主治医の先生によく結果をお聞きになってください。それから主治医の先生方へ、もうクラス分類を患者さんにお伝えするのやめにしませんか??

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