医語よろしく
2002年4月〜6月
2002.5.31
 院外処方と長期処方に一言?・・・・
今回のコラムは薬剤の「院外処方」に関する話題が続きます。病院で薬を患者さんにお出しするとき、昔は病院にある程度の薬剤のストックがあって、患者さんにはそこからお分けしていたわけです。つまり「院内処方」。大きな病院ほどたくさんの患者さんに対応するためにたくさんの種類の薬剤を在庫しておかなくてはならず、でもすべての薬がいつも回転よく処方され、無くなれば「卸し(おろし)」さんから補充される、ってなわけにも行かず、たまたま必要な薬をある患者さんに処方しても、その患者さんがお元気になればもう薬をもらいに来ることもなく、たくさん仕入れた薬の残りの多くは、不良在庫として残ってしまうわけです。でも製薬メーカーも仲介役の卸しさんも、薬剤を一錠ずつばら売りするようなことはしません。当然何百錠、何千包装のセットでないと病院には入荷させないため、病院としてはいつも在庫(言い換えれば、使われずに残る可能性があるのに多額の金を払って仕入れざるを得ない余るかも知れない薬のやま)の管理には頭を悩ませてしまうわけです。つまり病院が薬を自分のところに在庫しておくやり方は、あまり得策ではないということになりますね。また、そこに来て「薬の利鞘(りざや)」が、だんだん無くなって来た時代の流れが、病院に薬をおかないやり方に拍車をかけました。
 薬価(薬の値段)は、開発発売直後が最も高く、年を追う毎に薬価見直しというお上の作業により、どんどん安くなっていくわけです。つまり長年使われて、お医者さんも自信を持って処方できて患者さんもより安心して飲める薬ほど、実は安いということになり、薬の評価からすればそのような薬がたくさん売れてしかるべきでしょう。だけど薬の値段が安く設定されるとなると、病院側で「安く仕入れてそれなりに売る(患者さんに処方する)事で儲ける」という図式は崩れてしまうでしょう。
 保険医療で300円の診療報酬が約束されている薬をたとえば250円で仕入れることが出来れば、病院はその差額分50円が儲かるという計算になります。しかし、一錠が30円の薬を25円で仕入れても、5円のもうけにしかならない薬・・こんな安い薬が増えてきたら、これは病院で「薬の差額分」で商売しょうとしても、在庫を抱えて損をしたり、薬の管理に手間がかかったり、そんなことならヤ〜〜〜メタって・・・院外処方に、つまり病院から薬を外に出す(在庫と販売を調剤薬局にお願いする)したほうが楽なんです。その上、院外処方を出すとその処方箋に対してそれなりの上乗せの院外処方料が取れる・・・となると、もう病院では薬を在庫しておくことを辞めてしまうわけです。

 病院側からすれば、そんな経緯で院外処方が進んでいきましたが、実は大義名分患者さんにはもっとメリットがあるからというのが、はじめの頃のお上の口癖でした。今は一人の患者さんが、ひとつの病院にしかかからないというわけには行かず、あちこちの病院でいろんな病名に対しいろんな薬を処方されることが多いらしいのです。そんな時、患者さん達がそちこちで処方されている薬をすべて各主治医に見せて、薬の配合禁忌(一緒に飲むとよろしくない状態)を指導してもらえばいいけれども、100%それを確実に把握できたり指導できるわけではない。仮に患者さんが複数の病院から複数の処方箋をもらってきても、いわゆる自分のうちの近所の薬局がかかりつけ状態になれば、患者さん一人に対する薬剤の安全性管理ができるであろうと・・・・また、患者さんはどの薬局でもらっても良いわけで、わざわざ混んだ病院で薬を待たなくても、よく行く近くの薬局で出だしてもらえばいい・・と、これもとても好都合・・・というわけです。これ大義名分、理屈はよくわかるし、実際そういう流れにすべてが乗っかれば、こんなに良いことはないはずです。が・・・なんですか?、あの、病院の敷地のすぐ脇に道一本隔てて薬局が出来て、多くの患者さんはそこで薬をもらって、また電車とバスでよっこらしょと帰る。ご自分の近くのかかりつけ薬局でもらっている患者さんはいったいどのくらいいるのでしょうか???たいてい、せっかく病院まで出てきたんだから診察のついでに薬もらって帰ろう・・と雨の中ならわざわざカサさしてぬれながら病院の隣の薬局で薬をもらって帰る羽目になる・・・・なんでしょね、この現実。しかも患者さんは院外処方料という、まあ昔はなかったよけいな医療費を払わされて、病院の隣の薬局で薬をもらっているわけですよ。

 もうひとつ違った面から問題を見てみましょう。病院がすべての薬を処方するために、めったに出ない薬の在庫を抱えてしまって四苦八苦した事が、今度はまさに薬局で起こりつつあるんです。。患者さんはいろんな病院からの処方箋を持ってくる、薬局はそれに応じなくてはならないので、その患者さんのために薬を用意して、そのまま大量に仕入れた薬を、その患者さんがまた次にその薬局にもらいに来てくれればいいけど、ひょっとしてそれっきりになっちゃったらどうなりますか???薬局に薬が余りますよ。・・・在庫を抱えて・・・薬局の経営が窮している現実がそろそろ見えてきました。各薬局に在庫をおかない、薬局同士が連携して、無駄な在庫をまた別の薬局で効率よく利用する、そのようなチェーン店化したやり方をしないと、薬局も以前の病院と同じ憂い目に遭うことになるのです。結局、どこで在庫を抱えて厳しくなるかっていうのが、病院から薬局に移っただけで、薬の流れとしては何ら効率よくなったわけではないでしょう。大きなチェーン店に属する薬局しか生き残れない?、でもこれは仕方のないことかも知れませんが・・・・

 もうひとつ、話題にしたい「薬の話」があります。これまで病院で処方する薬は、長い薬で30日が限度と決まっていました。がんの治療薬もそうです。もちろん睡眠剤や向精神薬、麻薬などの痛み止めは、そんなに何日も出せませんよ、・・当然。でもその一般薬が30日まで出して良いとされたのは、つい数年前なんです。それまでは、14日(2週間)が限度なので、患者さんはついこの間まで、2週間に一回ずつ、病院を訪れて薬を出してもらっていたわけです。ところが、今年の3月から、睡眠薬などの特殊な薬剤をのぞいて、すべての薬が何日分処方してもかまわない、ということになったのです。極端な話し、一日3回飲む薬を、一度に一年分(365日分)処方しても、法的には許されますって事ですよ。え〜〜〜まさか、一年分なんて必要ないだろう・・・て誰しも思うでしょう。第一いくら安い薬といえども、一年分の薬の代金は、決して安くはないでしょう。病院に来るのが大変、病院にわざわざ薬をもらいに来る、先の院外処方であれば、わざわざ院外処方箋を出してもらいに病院に来る、これが頻回では患者さんが大変だから、何ヶ月分も一杯出してあげて良いですよ・・・ってことです。

 「診療:診察と治療、医療行為・・」って、どういう事かわかりますか。その患者さんにとって、今の患者さんの現状をよく把握し(診察・検査含めて)、もっとも必要で十分な治療を施す(たとえば薬を処方する)って事ですね。だから薬の処方の原則から言えば、患者さんは病院に来て、医師の診察を受けて、検査をして、大丈夫薬の副作用なし引き続き飲んでよろしい、ってなってはじめて、薬をもらって帰ることが出来るのです。しかし、ですよ・・・現実的にすべての患者さんでそのような事は行われていませんね。薬だけ取りに来なさい・・・診察は必要ありません・・・って言う医療行為がいかに多くされていることか、皆さんご存じでしょう。またそうしてもらわないと、時間がかかって大変ですよね。見て見ぬ振りをしてるわけではありませんが、「薬だけ」取りに来ることが、皆さん当たり前のことだとお考えでしょう。実は法的にはよろしくないことをしてるんです。

しかしその、薬だけもらいに来ている中味には、微妙に計画された緻密な医療行為が隠されていることを理解していただけますか。患者さんは何ヶ月も病院に行かないことを逆に不安がることも多いでしょうし、薬だけとは言いつつも心配なことがあればそのとき診察を受けたいとお思いでしょうし、決して「診察拒否の薬のみ」ではないところに、浪花節的ですが、阿吽の医療がなされているのですよ。だから元気で特別変わりがないときには「薬のみ」の診療があっても、それは言い方は変かも知れませんが「必要悪」でしょうね。

 長期投与すればそれだけ薬代がかかるという問題や、何ヶ月も患者さんが病院に来ないことの多方面でのデメリットを考えれば、薬剤の無期長期処方が法的に許されるようになっても果たして、有効に機能していくでしょうか・・・長期処方については疑問です。

 以前、患者さんの意見の中に、病院間の連携を取れば、薬や処方箋をもらいにわざわざ遠くの病院まで時間をかけて行かなくても良いんじゃないかと書かれていた事を覚えておいででしょうか。また、医療のワークシェアリングと称して、各病院診療所がそれぞれ医療の分担できる事を分けて行っていけば、患者さんも大病院に集中しなくなるし、地方のかかりつけ医の役割もより重要に活発になってくるのではないかと、提案しましたね。

 長期処方が可能になって、それが患者さんが病院に行く負担を少なく出来ると考えたのですが、実はそう簡単にはいかない。もしいっぺんに出してもらえるのなら、大病院に集中し患者さんの大病院志向は変わらないでしょうし、地域のホームドクターたるお近くの開業医の先生のところにはますます患者さんは行かなくなる。仮にその長期処方がすべて院外処方でまかなわれるとしたら、それに応ずる薬局も大口の薬の仕入れが必要で、下手をすればまた大量の不良在庫を抱えてしまう事になりかねない。

 まあ、僕の頭の中で、四の五の考えていても、本当に正しいかどうかはしばらく時間がたたないとわかりませんがね・・・院外処方や長期処方について、皆さんの意見も聞かせてください。

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