医語よろしく
2002年4月〜6月
2002.5.8
 日米、新薬開発事情の違い・・・
「昨年の乳癌学会総会での出来事です。海外からの著名な先生方に特別講演をいただくこと、最近どの学会や研究会でも盛んに、海外医療エッセンスの拝聴を行っていますが、米国MDアンダーソンがんセンターの腫瘍内科の先生、乳がんの遺伝子治療でご高名な「上野先生(日本の医学部を卒業後渡米し米国の医師ライセンスを取って活躍中の先生です)」の特別講演がありました。乳がんに限らずどこのがんでも、遺伝子治療に取り組む姿勢はがんの最新治療として脚光を浴びています。上野先生の特別講演は E1Aというウイルスを利用した、乳がんの遺伝子治療で、現在、実用化への最短距離にある治療法として紹介されています。現在はまだ治験段階、これからよりたくさんの患者さんにこの治療法を試しつつ、実際の臨床上、確実で安全な治療として確立させていく段階だと言うことですが、それでもまだ、一般の臨床の現場にお目見えするには5年以上の年月が必要であろうとお話しされていました。

さて、その効果については・・・・転移性乳がんに対する治療成績は、奏功率(がんを小さくしたり発育を抑えたりするパワー)が、確か約30%台であるとお話しされたと記憶しています。つまり100人の患者さんのウチ30人の患者さんに効果がある・・・というモノです。それを聞いていた、講演会場の聴衆の方々(ほとんどが学会に勉強に来ている日本の先生方)は、その30%という数字を、決して満足行く数字であるとは感じなかったようです。事実僕も、なんだその程度の奏功率なのか、これまでの僕らが普通に使っている薬とそれほど大差ないのかな、この遺伝子治療は将来性があるのかな・・・と、ふと感じてしまったくらいです。

案の定、会場のある日本の大学病院の先生から質問(発言)がありました。「その程度の治療成績しか期待できないのであれば、現有の治療法に比べ何ら優位性がないではないか。それほどまでに、金と時間とエネルギーを使って、この遺伝子治療の研究を推進していくのはあまり意味のない事じゃないか」・・・って、ずいぶん失礼な訊き方ですが、でもその質問の内容に、「そうだ、その通り」って感じた日本の先生方は、その会場のかなりを占めていたのではないかと思います。

さて、当の上野先生、そんな意地悪な質問に対して、四苦八苦してしどろもどろのお答えをするのかと思いきや、(それこそ失礼な言い方をしてすみません)、いとも簡単にさらりとお答えになったんです。

先ず、「患者さんにとって治療法のオプションがひとつ増えることは、こんなに喜ばしいことはないじゃないですか」・・・・先ず、僕はその一言で、ほぼダウン直前にまでパンチを食らったような気分になりました。さらに追い打ちをかけるように「この研究を進めていく上で、この研究成果を得るために数々失敗し、努力した結果、これまでわからなかったことが解決したり、これまで不可能と思っていたことが可能になったり、枝葉のメリットが実にたくさんあったことが、我々の財産になったのです。だからこの治療法そのものの成功以上に、それらの新しい「事実やノウハウの発見」こそが、今後の遺伝子治療の推進のための原動力になっていくであろう事が、一番の評価に値すると思います」と・・・・

ここまで聞いて、僕は完全にノックアウト状態、ギブアップでした・・・まいりました・・・って感じですかね。

日本のお医者さんが、ごくごく普通に進む方向といえば・・・医者になって、外科医としての研鑽を積む傍ら、大学の医局の各研究室に所属し(僕なら乳腺研究グループに入って乳がんの)診断や治療に関する新しい研究をすすめ学位論文を書く事と並行して、学会活動なるモノを盛んにやり出すわけですよ。それこそ研究成果を世にお披露目すべく、学会発表をたくさんトレーニングするんです。多くのお医者さんはそうなんです。その時に上司にである先輩の先生達、もしくは研究室の仲間達からは、どのようなご批判ご指導を受けるか・・っていうと、・・「おまえのやっている診断法や治療法が、今現在あるモノよりもいかに優れているか、いかに優秀かという結論を導き出せ!と、それがなければ学会研究発表の意味はない!!」ってな、そんな教育を受けてくるんです。だから、今あるモノを越えられない研究成果の発表には何ら意味がない。・・・そうやって育てられた感覚の日本の先生達には、上野先生のお言葉は、とても強烈だったでしょう。(でもひょっとすると、強烈だと受け止めた先生よりも、中途半端な受け答えだったと感じた先生の方が、ずっと多かったかも知れない・・・そこまで、感性がずれまくっているのかも??)
「日米の新薬開発事情」なんてタイトルにして、おおげさなコラムになってしまったかもしれません。しかし、この一連のやりとりの中で、皆さんに何かを感じて欲しいのです。

医学教育に関してもしかり・・・点数ポイント制の医局講座絶対主義から学ぶ、日本の先生達にこのような、ゆとりある研究開発の姿勢が本当に養われているのでしょうか。

研究はあくまでも「患者さん」のためのもの、それが頭から離れた瞬間に、その研究は全く意味を成さないはずなのに、妙に玄人受けする「はずれた」知見ばかりがクローズアップされるのも変。それから、何より、金銭的なもの・・金の流れがきっと米国の方がよっぽどスムーズなんだろうなあ・・・金のあるところから潤沢な研究費が導入され、しかも、とにかく「ゆとり」がありそうです・・研究者の気持ちに・・・日本人ってそういえば、何事に関しても「目先のできあがり」ばかり気にして、すぐにでる成果ばかり追いかけているような気がしません???・・・10年先の変化をいち早く正しく受け止めて、今すぐでなく10年後にきちんと結果のでるプロジェクトに、アイデアと時間と金と労力をたっぷりつぎ込むことは・・下手ですね。すぐ結果出さなきゃ、すぐ使えなきゃだめ・・・そんな評価の仕方しかしないから「つぎはぎ」でロクなモノも作れず、結果的に使い物にならず無駄になる・・・

十分なアイデアと、開発力を持った日本の製薬企業が、何かというとすぐに米国FDA(日本で言う厚生労働省のようなモノ、薬や食品に許認可をするお役所のことです)での許認可を真っ先に取ろうと躍起になるのも、わかりますね・・・

乳がんの遺伝子治療のことからはずれてしまいました。しかし・・・こうして、ゆっくりとではありますが、またひとつ新しい治療法が「米国」で開発されつつあることを、高く評価しましょう。と同時に、日本の医療、乳がん医療も含めて、もう少しゆとりを持って本当によいモノをじっくり作っていきませんか・・・また、それがひいては間違いなく患者さんのメリットにつながるであろう事を、決して忘れずに・・・・・

ついでにいわせてもらえば、今日では、情報や技術といった目に見えないものが持つ価値を「重要である」を評価しつつも、それを製品やサービスの競争力に直結するような仕組みには、まだまだなっていない。つまり、「知的財産を充実させること」は、日本の産業の競争力強化を考える上において、切っても切り離せない重要な課題であるべきなのに、でも、目先の利益に振り回されてしまうんですね。「情報」とか「アイデア」とか、とても大事なんですよ。・・・・・つまり、日本の乳がん医療におけるブレストサービスの存在はね・・しっかし、ちっとも金銭的には評価されてないんですよ、実際には・・・・とほほ・・・

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